営業中のWow!を探します


「真夜中のカンカン帽」

 

 

亀岡の夜は早い。駅前といえど、夜も8時を過ぎると人影はまばらである。

時折電車が停車してプラットホームから走り去ると、少しの間をおいて沢山の人影が流れ出てくる。ところが、そこはベッドタウン、5分もすれば辺りは再び時間が止まったような静寂に包まれてしまうのだ。古くからの営みではあるが、近ごろ特に、夜の逃げ足に拍車がかかったような気がしている。そんなことだから、何かしら「真っ直ぐ帰るには物足りない」という感情を強く抱えてしまった者でない限り、置き去りにされたような田舎の店の明かりを目指して下さらないのかも知れない。

そして、ことさら活気のない、週末らしくない時間を過ごしていると、真夜中近くに足音とともにドアが開く音がした。

 

「こんちわぁ!あっ、こんちわ違うわ、こんばんわ!や」笑

「あっ、お久しぶりです!お元気で?」

「まぁ、なんとかね…ハハ」

「都からの帰りですか?」笑

「そう、歴代のPTA会長らが定期的に寄る会があるんですわ」

 

まるで身体の一部に思えるような、洒落たベージュのカンカン帽が素敵である。それを脱いで荷物と一緒に隣の席に置き、カウンターに腰かけて、両手を組みながらお気に入りの「余市」をとおっしゃる。

 

「今、手に入らんにゃろ?日本のウイスキーは…」

「ええ、もう壊滅的ですね」

 

余市をロックグラスの氷に流し込んだあと、しばし、いつもの古き良き時代の話を聞かせていただく。御年77の、いわゆる「喜の字を祝う」佳境の方で、若い頃はずいぶんと遊んでこられたご様子である。

 

「長襦袢サロンって知ってるか?」

「な、長襦袢サロンですか?長襦袢って…Wow!そんなん初耳ですわ。なんか、めっちゃワクワクしますね」笑

「ネグリジェサロンとかな…ハハハ。いやいや下品やないで、上品なんやで。まあしかし、バーがなくなってきたね。なんかこう、昔のバーがね」

「あー、ねぇ…。そうですかね」

 

バーがなくなった…。

 

バーではもちろん酒を飲む。しかしそれは枝葉であって、その行為を含めた「時間と空間」を飲むためにやって来る客がいる。そして、各々が抱えている喜怒哀楽をカバンの中から取り出してカウンターやテーブルに並べては、またそれらを仕舞い込む。ところが、仕舞い込みたくないモノもあるので、その幾つかを、そっと薄明りの片隅に置いて帰る。そんな、明日に向かうための営みが繰り返されているバーが少なくなったと、そうおっしゃっているのではないだろうか。

 

「死にかけのジジィは、そろそろ帰りますわ」

「あ、お帰りで?折を見て、また御顔を見せて下さいね」

「ハハ、なかなか出る事も少ななったでな。またまた」

「お伴はどうされますか?」

「あー、ええ、ええ。歩いて帰るわ」

Wow

 

ベージュのカンカン帽をスッとかぶると、揺らりとしながらもシッカリとした足取りで階段を降り、帰途につかれた。

御仁のお住まいまでは、やや明るい市街地を通り抜けたあと、ポツポツとある街灯の明りだけが頼りの、暗闇に包まれた田園風景が連なる。

深夜2時前。距離にして、3~4キロ。

 

「死にかけのジジィ」どころか、大還暦さえ見えてきそうである。笑

 

 

 

2018.6.17


「ちょっとした、大きなこと」

 

 

最近、今までにあまりなかった傾向が見られます。

ご夫婦やカップルでお越しになるケースが増えているのです。

このことに対して、特に分析をしたりすることはないのですが、何かこう、潮目が変わってきたのかな…と。そんな風に感じています。

 

少し前にこの亀岡に越してこられて、ご紹介でちょくちょく足を運んで下さるご夫婦がいらっしゃるのですが、先日、お二人から「ペパーミント・ブラック」の苗をいただきました。

ブランドロゴがプリントされた、小洒落たブライトバックにスッポリと包まれるようにして差し出されたそれを見た瞬間、「Wow!覚えてくれてはったんや」と感激したものです。

 

いつぞや、「モヒートを創るときには、こんなミントを使うんですよ」などと話をしたことを思い出しました。その一瞬を、こちらとしては単なる話の流れの中で発した言葉の一部分を、忘れないでいて下さったのです。

こういう些細なことを気に留めていて、それをさりげなくカタチにできるというのは素晴らしい事だと思います。人間の営みというものは、気ぜわしい生活を送るということと無縁でいることはできません。そんな中において、他人を想う、思い出す、という時間を見い出すことは意外と難しいものではないでしょうか?

 

この時節、育てている(というか、放置している)アップル・ミントがワサワサと茎を伸ばしてきています。これからは、いただいたペパーミント・ブラックも仲間入りです。

さてさて、今年のモヒートはどういう仕様にしましょうか…。

ちょっとワクワクしますね。

 

 

 

2018.5.22


Absolute closer ~絶対的クローザー~」

 

 

人生という皺(しわ)を額に刻み込んだ老紳士たちが、薄暮の時分からカウンターでグラスを傾け始める。バーテンダーと無駄を削いだ会話を交わしながら、あるいは黙しながら、独り静かにウイスキーを流し込む。また一人、そしてまた…。しかしながら、決して店内は混み合うことがない。

阿吽の呼吸とでもいうのか、まるで計ったかのような出入りのバランスとともに、空間の密度が保たれながら時間が流れていく。

 

そんな素敵なBARがあったとしましょう。いや、実際にあるのですが…。

 

京都の名店の一つと謳われるそのBARでは、産声を上げてから今日までの間、脈々と流れる琥珀色の営みの中でこういった間合いや空気感がしだいに醸成されていったのでしょう。店の主であるバーテンダーが掲げるコンセプトやポリシーが、やがて客の持つ感性や意識を刺激し始めて、両者が化学反応を起こしながら融合することで、揺るぎない店の「格」として昇華していったのだと思います。

 

ウチのお客様の中で、その名店の魅力にハマりつつある男がいます(笑)

 

所要の前に、まずそこでウイスキーのハイボールなんぞを所望するのだそうです。

そして、新参者としての立場をわきまえつつ、止まり木に降り立ったように少しの間だけ歴史の中に身を置き、サッと立ち去るというのです。

Wow!ええやん、ええやん、格好ええやん。やるやん(笑)

 

「今日も寄ってきました」

 

ある日、そう言ってウチのドアも開けてくれました。

帰り道ということもあるのでしょうが、締めの一杯をウチで飲んでくれるとのこと。

有難いことです。

 

「何するん?」

「じゃあ、こないだ教えてもらったやつで」

「ほう…」

「これは締めの一杯にもってこいですね」

 

フェルネ・ブランカ。

 

薬草・香草系で、にっが~いイタリアのリキュールです。

ホンマ、苦いです。都会のBARにいた時も含め、年間を通してほとんどご指名が掛からないというお酒なのです。

 

よしよし、この手のお酒の奥深さがわかり始めてきたな。いい事、いい事。

ライムをグラスのふちにリンスしてから中に絞り落し、ソーダ、又はトニックでアップしたロング・カクテルをサーブする。

 

「いやぁ、これを飲んだら、もう次の酒は飲めないですからねぇ…締めに最高です」

 

そうか、そうか、そんなに気に入ったんかいな。わかってきたねー。

まぁ、あえて聞く事もないけど、締めに最適な理由を彼の口から聞いてみるか。

 

「ところで、なんでこれが締めの一杯にええのん?」

「これですか…。これ飲んだら口の中がにっがーて、もう次の酒なんて飲めたもんちゃうでしょ?だから最後の一杯に最適なんスわ、ハハハハハ」

「…」

 

そこ?Wow!ぜんぜん深ないやん…

まあでも、確かに、そういう意味では「絶対的クローザー」かも知れないですな。

 

 

 

2018.5.20

 


「帰ってきた!」

 

季節は春。そして、春が去り行かんとする晩春のはじめ、45日頃を二十四節気では「清明」と呼びます。さらに季節の変化を刻んだ七十二候では、その頃は清明の初候に当たり「玄鳥至」(つばめきたる)と呼ばれます。

 

その玄鳥至から1か月、55日頃を「立夏」(二十四節気)とし、立夏の初候を「鼃始鳴」(かわずはじめてなく)と名付けました。こういった一連の呼び名には趣を感じざるを得ません。

 

今年も帰ってきています。愛くるしいツバメが。

 

年配の方は「ツバクロ」などと呼ばれますが、他にツバクラ、ツバクラメ、ツバクロウなど多くの異名があるようです。

多様な呼び名の由来には諸説あるようで、一つに、江戸時代後期の全国方言辞書とされる『物類称呼』には「又つばくらめとは、土くらひの和訓也と、篤信翁の説也」とあって、「ツバクラ」とは「土をくらう」から来ているのだそうです。そして、「ツバは唾」「クラは蔵」ととることができ、転じて「ツバ(唾)をからめた土でクラ(蔵=巣)をつくる」姿を表現して「ツバクラ」と呼ばれていると考えられるというものがあります。

なるほどと思わされるものがありますね。

 

遠く南の台湾やフィリピン、インドネシアやマレー半島で越冬して、また生まれた場所にこうして帰ってくる。「その小さな体になんて力と能力が備わってるんだ」と眺めていると、チラチラと私と目が合います。開店前のスタンバイ、その途中のなぜかホッとする小さな癒しです。日本人はツバメと桜には寛容ですね。巣の下には「フンに注意」などと貼り紙をしたコーンをたてたり、舞い散った桜の花びらを取り払うこともせず走っている車を見かけたりします。

 

そう言えば、人間にもツバメに負けず劣らずの能力をもった者がいることを思い出しました。「酔っ払い」です。彼らにも驚くべき帰巣本能が備わっています。ベロベロの千鳥足でも、しっかりとBARにやってくるのです。Wow

高性能な体内方位磁石でも持っているのでしょうか?

しかしながら、そこまでして来ていただいても前後不覚では様々な支障が出ます。それに苦言を呈するなり、なだめるなり諭すなりはバーテンダーの仕事の一つと心得、お引き取りを願う次第であります。そんなことがあっても、以後、そういったことを改めて従来通り通っていただくのですが、そういったお姿には感謝に堪えません。

 

ん?もしかして何も覚えてない…?Wow

 

 

2018.5.5


The Owners Cask

 

200411月、サントリーは、個人や企業自らがテイスティングをして各々が気に入ったウイスキーの樽を購入できるという、「サントリー・オーナーズ・カスク」のサービスを開始(2010年より一時休売となっているようです)しました。

山崎、白州蒸留所におけるモルト原酒を樽ごと販売し、購入者に瓶詰めして発送するというものです。

 

販売される樽は「自信をもって提供できるもの」ということで、貯蔵年数は10年~25年、使用される樽材はホワイト・オーク、スパニッシュ・オーク、ミズナラで、その形状はバッツ、パンチョン、ホグスヘッド、バーレルとなり、異なる個性を持った103樽が用意されました。山崎蒸留所から63樽、白州蒸留所から40樽という内訳です。

 

気になる樽のお値段は、その材質や容量などによってさまざまで、最もリーズナブルなもので50万円。最も高価なものだと、なんと3000万円という価格が付けられました。Wow!

購入希望者は、専用のテイスティングルームでブレンダー同席のもと試飲を行い樽を選定します。後は、自らのサインや社のロゴ入りのラベルが貼られたボトルの到着を待つのみとなります。

 

1枚目の写真のボトルは、この国内初のサービスを最初に利用された方(1号購入者様)のもので、お連れ様と共にこのほどお越しいただき、現物をお披露目いただいた次第です。Wow!

ちなみに、この方はサービスを2度ご利用になっておられ、2度目は複数名での購入ということですが、2枚目の写真がそのボトルになります。

「このラベルに描かれたイラストがいいですね」と申し上げたら、

微笑みながら、「娘のデザインなんです」と一言。Wow!

 

 

2018.4.29